スーツマン「遅いですねぇ」
上司K「遅いよなぁ」
足の踏み場もない程のショールームで、航空便で届いた新商品サンプルの整理をしながら見つめた壁時計は、18時30分を周っていた。
師匠の営業戻り予定時刻の17時30分を1時間も過ぎ、胸が少しソワソワし始めた頃だった。
師匠の帰社
それにしても、会社の2階にあるショールームは、階段の音がよく響く。
振動をスリッパの裏で感じ取り、休憩をしていてもあわてて仕事に戻る事ができる。
今日はいつも以上に大きく、細かいリズムで階段が鳴響いてきた。
師匠「おつかれさまで~す!」
スーツマン・上司K「おかえりなさ~~い!」
今日の師匠の服装は暗めの色でコーディネートされていたのだが、
その右手に光る艶やかなオレンジ色が目に留まる。
スーツマン「その柿どうしたんですか??」
師匠「じいさんがくれたんやぁ」
スーツマン・上司K「じいさん!?」
感謝の柿
葉も枯れて傷々しい柿を瞬きもせずに見つめながら、師匠が一連の出来事を語り始めた。
外回りの営業を終え、窓を開けながら走る車から、田んぼばかりの流れる景色の中に
道の側溝に座り込んだおじいさんが飛び込んできた。
よく見ると額を深く切っており、軽いけがではなさそうだった。
師匠「じいさんどうしたんや!?」
車のドアも閉めずに駆け寄った師匠に、目を合わす力もなさそうに細い声が聞こえた。
じいさん「ころんだんや」
師匠「ころんだって・・・じいさんすごい血やないか!!病院いかなあかんよ!」
じいさん「お金がないからいけやんのよ・・・」
師匠「そんなもん俺が立て替えたるから、はよ車乗りぃ!」
弱り果てたじいさんを抱きかかえ、車で病院に向かった。
治療終了まで見守って、自宅まで送る際、よほど頭を強く打ったのか
自宅の道のりが思い出せない様子だったそうだ。
じいさんの言う自宅の近所をぐるぐるしていると、自宅を無事に発見し送ることができた。
その際にじいさんが震える手で自宅の門構えの横にある大きな柿の木の実を一つ、もぎとって、渡してくれたそうだ。
じいさん「ありがとう」
師匠「お金はいつでもいいから、とにかくよかったよ」
その話を聞いている間に、柿が金色に見えてくるほど、感銘を受けた。
自分だったら同じ境遇で、同じ対応ができるだろうか??
そんなスーパースーツマンになりたい。
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