コンクリートがため込んだひんやりとした冷たさが徐々に空気に伝わる会場で、とある展示会があった。
今回の位置は入り口に面し、入場者すべてにブース(展示会の時に商品を並べる部屋のような区切ってあるところの事を言う)や商品を見てもらえるが、いろいろな出展ブースもすべて見たいのでまた来ます、と避けらられる理由もでそうな不安な位置。
とりあえず通りすがる人すべてに声をかけようと、ジャンパーで体を覆いながら缶コーヒーを片手に胸に秘めたその時、前のブースに笑いジワの目立つスーツ姿の年配の方がたっていた。
第一印象は大事!警戒心を抱かせない外見
人により、簡単に信じてしまう人、そうでない人がいるとは思うが、私の場合はそのひとの雰囲気、どれくらいその人を知っているかなど、付き合いの程度で信用してしまう傾向にあるとも思う。
いわば出会ったその前のブースの方はずばり、見た感じとても親切そうで目じりには3~4本の笑いジワがとても特徴的であった。
もちろん、先手を打たれて話しかけられたのは言うまでもないが、安定した低く、野太い穏やかな声で会話は始まった。
前のブースの方(以後 余呉さん)「おはようございます、前のブースでご一緒させていただく余呉(仮名)と申します・・・」
スーツマン「はじめまして、スーツマンと申します。」
案外硬い人なのかなと名刺交換の際、印象をもったが気さくに話しかけられるうちに、いつしか打ち解けていった。
余呉さんはおそらく話し手だろう、なにせトークが止まらない笑
しかし自慢話や商品の知識をひけらかすなど嫌味な点がなく、昔から知り合っているかのようなごく普通の世間話から、相手にきちんと興味をもって話題を選ぶそのセンスは見事だった。
よく見ると年齢の割には清潔感があり、真っ白なカッターにしわ一つないスーツ、磨かれた靴。
念入りの手入れが、プライドをもったスーツマンだとビシビシ伝わってきた。
しかし、警戒心を抱かせないその笑いジワが、満面の笑顔の上に生きて生きた証か。
少しの時間で、すでにもともと知り合いだったかのような雰囲気に包まれていった。
売る商品は一つ、使う手法も一つ、しかし最強のその方法とは
余呉さんの売る商品は、なんと一つだけ、しかも活性剤のような薬のみ。
花を挿す水にいれるだけで、普通の何倍も枯れずに生きられるという商品であった。
その薬を並べて、見本の商品が入った水に挿してある花、そうでない水の花のディスプレイ、そしてハガキより少し大きいくらいだろうか?
チラシがおいてあるだけだった。
それに比べスーツマンのブースには何百もの細かい商品がずらりと並べられ、見比べると対照的であり、少し寂しさを感じるブースでもあった。
会場時間が間近に迫って、本日はどんな一日になるか、きっちり売り上げは作れるのかを頭に思いながらその時を待っていたら余呉さんが話しかけてきた。
余呉さん「こんなに華やかなブースの前で一人でぽつりと申し訳ないね~。。しかしたくさんのかわいい商品が前にあって、私も楽しくなってしまいます喜」
スーツマン「いえいえ、余呉さんと知り合えたのも何かの縁、今日はいい一日になるよう頑張りましょうね♪」
おそらくお客様に配るチラシなんだろうか、手にもちはじめ、会場入り口を見据えた余呉さんの先にはお客様の列がみえた。
「会場します」
アナウンスが聞こえ、お客様がぞろぞろと入場しだした。
スーツマン「いらっしゃいませ~!いつもありがとうございます!」
顔なじみの多い展示会、足早に注文を少しでも入れてくれるよう一人でも多くの人に声をかけていく。
そんな時だった。
余呉さんの客引きの手法が目に入ったその時、自分の目を疑った。
なんとチラシを配って受け取ったお客様に渡すのではなく、どうぞと渡すその手を離さぬままチラシ事お客様を引っ張り、ブースまで連れて行くのだった。
スーツマン「 (心の中で)え~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」
そこで活性剤の話をし始め、お客様を引き込んでいき、最後には受注につなげる。
お客様に説明がおわり、また次のお客様にチラシを渡すや否や、チラシ事引っ張りブースへ連れていく。
余呉さんの人徳があってできる事なのだろう、とても得意パターンだという事が目に見えてわかった。
しかもこれを一日中続けている。
そしてグループをいったん引き込めば、なんだろうという群集心理でどんどん人が寄ってくる。
まさに圧倒の出来事。
自分の勝ちパターンを取得し一途にずーっとこなしてきたのだろうか。
周りの中には、笑っている人もいるが最終的には聞き入っていて買っている。
チラシがもらえないまま引っ張られるその驚きの行動が、時には笑いとなり、なんだこの人と警戒されることもある。
しかしやらなければ何も思われないまま通り過ぎる。
やらないよりは何かやってお客さんとのアプローチといえる導入をしっかり作る。
以後、余呉戦法は、他で見る事はめったにないが、心打つ感銘の出来事であった。
そして、もっとも心打ったのが、自分の商品を買ってもらった後、前のブース、つまりスーツマンのブースを紹介してくれお客様が来てくれる。
話を聞けば、自分だけが儲かればいいという人は多い。でも業界で盛り上がった方が、もっともっといい事がある。
昔からこちらの商品を知っているかのような知識をたくみに話術に盛り込み、お客様を惹きつけていく。
トークの引き出しもそうだが、営業の引き出しもたくさん持っている余呉さん。
一人ひとりの力でも、何とかなる。
大事なのはみんながそれをすること。
スーパースーツマン。
そんな日が一日でも早く来るように、たくさんの感銘を受け続けていきたいと思う。
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